「取材してきて」と言われたとき、何から始めるか

「来週のオウンドメディア用に、○○さんの取材記事をお願いできる?」

上司からこう言われたとき、すぐに質問リストを作り始める人が多いのですが、実はそこが最初の落とし穴です。取材記事の出来を左右するのは、当日のインタビュー技術よりも、その前の準備段階にあります。

この記事では、取材の事前準備からインタビュー当日の進め方、原稿の構成テクニック、取材先への確認まで、実務で使えるノウハウを一通りお伝えします。社内報やオウンドメディアの取材記事を初めて担当する方はもちろん、「なんとなく書けてはいるけど、もう一段レベルを上げたい」という方にも役立つ内容です。

取材前の準備が記事の8割を決める

取材記事で「読み応えがある」と感じるものと「表面的だな」と感じるもの。その差はほとんどの場合、インタビュー当日の話術ではなく、事前準備の深さで決まります。

相手を知ることから始める

取材対象者について、手に入る情報はすべて目を通しておきましょう。具体的には以下のような情報源があります。

  • 過去のインタビュー記事や登壇資料
  • SNSでの発言(特にXやnoteなど、本人が書いている媒体)
  • 所属企業のプレスリリースやIR情報
  • 業界の最新ニュースや動向

ある製造業の広報担当(従業員200名、東海地方に3工場)が社内報の取材を担当したケースが参考になります。この方は取材相手である工場長のLinkedIn投稿を事前にチェックしていました。そこで「品質管理の考え方が変わった」という投稿を見つけ、それをきっかけに想定外の深い話を引き出すことができたそうです。

事前リサーチは「知っていることを確認する作業」ではありません。「このひとに聞かないと出てこない話は何か」を特定する作業です。

質問リストは「読者が知りたいこと」から逆算して作る

質問リストを作るとき、ありがちな失敗は「自分が聞きたいこと」をそのまま並べてしまうことです。取材記事を読むのは自分ではなく読者なので、読者の視点で質問を設計する必要があります。

効果的な質問リストは、3つのステップで作れます。

まず、記事のゴールを1文で定義します。「読者がこの記事を読み終わったとき、何を持ち帰ってほしいか」を言語化するのです。たとえば「BtoB営業のアポ取りに苦戦している担当者が、明日から試せるアプローチを3つ知る」という具合に、具体的に設定します。

次に、そのゴールから逆算して質問を設計します。読者に持ち帰ってもらうために必要な情報を洗い出し、それぞれを引き出すための質問に変換していきます。

最後に、質問を「事実→感情→教訓」の順に並べます。まず事実関係(何をしたか、いつ始めたか)を確認し、次に感情(なぜそうしようと思ったか、どう感じたか)、そして教訓(振り返ってみてどう思うか、他の人へのアドバイスは)という流れにします。この順番で進めると、相手も自然に話しやすくなります。

質問リストは10〜15問を目安に作り、実際の取材では5〜7問しか使わないくらいがちょうどいいバランスです。余裕を持たせておくことで、想定外の良い話が出たときに追いかける余地が生まれます。

段取りを軽視しない

取材は「会って話を聞く」だけではありません。場所、時間、録音許可、写真撮影の可否、記事の確認フローなど、事前に決めておくべきことは意外に多いものです。

特に確認しておきたいポイントは4つあります。

取材時間は、30分なのか60分なのかで質問の深さが大きく変わります。初回取材なら最低45分は確保したいところです。

録音の許可は、必ず事前に確認してください。当日いきなり「録音していいですか?」と聞くと、相手が構えてしまうことがあります。

記事の確認フローとして、公開前に取材先に原稿を見てもらうのか、どの範囲の修正を受け入れるのか、あらかじめ合意しておくとトラブルを防げます。

撮影の有無について、写真が必要なら撮影場所や服装について事前に伝えておきましょう。取材記事の写真をスマートフォンで撮影するなら、企業撮影をスマートフォンで行う方法も参考になります。

インタビュー当日の進め方

準備が万全でも、当日の進め方で記事の質は大きく変わります。ここでは、実務で効果が高いテクニックを4つ紹介します。

最初の5分で場の空気を作る

インタビューの質は、最初の5分で決まると言っても過言ではありません。いきなり本題に入るのではなく、まずは相手の緊張をほぐす時間を取りましょう。

効果的なアイスブレイクのコツは、事前リサーチで見つけた「ちょっとした共通点」を会話に織り交ぜることです。「先日のnoteの記事を拝見して、あの考え方にすごく共感しました」と具体的に伝えるだけで、相手の表情は明らかに変わります。

逆にやってはいけないのは、「今日はよろしくお願いします。では早速ですが…」と事務的に始めることです。これだと相手は「取材されている」という意識から抜けられず、建前の回答に終始しがちです。

「なぜ」を3回深掘りする

取材初心者がやりがちなのは、相手の回答をそのまま受け取って次の質問に移ってしまうことです。しかし、本当に読み応えのある記事の素材は、2回目、3回目の「なぜ」で出てきます。

たとえば、こんな具合です。

「新規事業を始めたんです」→「なぜ新規事業を?」→「既存事業の成長が鈍化していて」→「何がきっかけでそれに気づいたんですか?」→「実は、ある顧客からのクレームがきっかけで…」

3回目の深掘りで出てきた「顧客のクレーム」のエピソードこそ、記事の核になる素材です。表面的な事実の奥にある、感情や決断の瞬間を引き出すことを意識してください。

従業員80名ほどのIT企業で広報を担当している方から聞いた話ですが、「なぜを3回聞くようにしてから、取材記事への社内の反応が明らかに変わった」とのことでした。具体的には、社内Slackでの記事共有時のリアクション数が2倍以上になったそうです。

沈黙を武器にする

相手が考え込んで黙ったとき、焦って次の質問を投げてしまう人は少なくありません。しかし、取材における沈黙は「相手が深く考えている」サインです。3〜5秒の沈黙を恐れないでください。

人は沈黙が続くと、それを埋めようとしてより本音に近い言葉を選びます。「あの時は…正直に言うと…」という前置きが出てきたら、それは深掘りが成功しているサインです。

ただし、10秒以上の沈黙が続くようなら、相手が答えに困っている可能性があります。その場合は「別の角度からお聞きしますね」と切り替えましょう。

録音とメモは両方使う

「録音しているからメモは不要」と考える人がいますが、これは危険です。メモには録音では代替できない3つの役割があります。

1つ目は、相手の表情や声のトーンの変化を記録できることです。文字起こしでは「声が震えていた」「少し間があった」といった非言語情報は失われてしまいます。

2つ目は、「ここが記事の核になる」というリアルタイムのマーキングができることです。60分の取材音声を後から全部聞き返すのは非効率ですが、メモに印をつけておけば重要な箇所にすぐたどり着けます。

3つ目は、取材中に浮かんだ追加質問を書き留められることです。相手の話を聞きながら「ここをもっと深掘りしたい」と思ったら、メモの端に書いておけば聞き漏らしを防げます。

原稿構成のテクニック

取材が終わったら、いよいよ原稿の執筆です。ここで最も重要なのは、取材で聞いた順番のまま書かないことです。

冒頭にインパクトのあるエピソードを置く

取材記事の冒頭でありがちな失敗は、「○○株式会社の△△さんにお話を伺いました」という紹介文から始めてしまうことです。読者がまず知りたいのは、取材対象者の肩書きではなく「この記事を読む価値があるかどうか」です。

効果的な冒頭は、取材で最もインパクトのあったエピソードや発言から始めることです。

「A社マーケティング部長の佐藤さんにお話を伺いました」と始めるよりも、「'3年間ずっと失敗し続けて、やっと分かったことがあるんです'——佐藤さんはそう切り出した」と始めたほうが、読者の目は止まります。

読者の興味を引く冒頭を書くためには、取材素材の中から「最も意外性のあるエピソード」を見つけ出す作業が欠かせません。

直接引用と地の文のバランスを取る

取材記事で読みにくいパターンの一つが、取材対象者の発言をそのまま全部載せてしまうことです。発言の引用は記事の核心部分に絞り、それ以外は地の文で要約するのがコツです。

目安としては、記事全体の20〜30%が直接引用、残りが地の文という比率がバランスのよい構成です。直接引用を使うべき場面は、感情が込められた発言、意外性のある見解、記事のメッセージを集約するひと言に限定しましょう。

Googleの有用なコンテンツに関するガイドラインでも、独自の洞察や経験に基づくコンテンツの価値が強調されています。取材記事における直接引用は、まさにその「独自の洞察」を読者に届ける手段です。

構成は「時系列」ではなく「読者の関心順」で

取材で聞いた話を時系列で並べるのは、書き手にとっては楽ですが、読者にとっては退屈になりがちです。

代わりに、「読者が最も知りたいこと」から順に配置する構成を試してみてください。具体的には、結論や成果を先に見せ、そこに至るプロセスを後から解説する形です。

たとえば「BtoB営業のアポ率が3倍になった」という成果を冒頭で示し、その後に「どうやってそれを実現したのか」を展開する構成にすれば、読者は最後まで読み進めるモチベーションを維持できます。

営業拠点5箇所を持つ中堅メーカー(従業員150名)の事例では、社内報の取材記事を「時系列型」から「関心順型」に変えたところ、社内アンケートの「記事を最後まで読んだ」という回答が34%から67%に上がったそうです。

取材先への確認と校正のお作法

原稿が書き上がったら、取材先に確認してもらうプロセスに入ります。ここでの対応を誤ると、せっかくの記事が公開できなくなったり、取材先との信頼関係を損ねたりする可能性があります。

事実確認は3つのレイヤーで行う

取材記事の事実確認は、以下の3段階で進めるのが効果的です。

数字と固有名詞の確認が最優先です。日付、売上、人数、社名、役職名など、間違えると信用を失う情報から潰していきましょう。

次に文脈の確認です。発言の意図が正しく伝わっているかを「こういう意味で合っていますか?」と取材先に確認します。

最後に公開可否の確認を行います。取材中は「ここだけの話」として聞いた内容が混ざっている場合があります。公開して問題ないか、一つずつ確認しましょう。

なお、取材記事で第三者の著作物を引用する場合は、著作権法における引用のルールを理解しておく必要があります。取材に基づく本人の発言の記載は著作権上の問題にはなりにくいですが、書籍や論文から引用する場合は出典の明記など適切な対応が求められます。

修正依頼にはどこまで応じるか

取材先から「この部分は削除してほしい」「表現を変えてほしい」という修正依頼が来ることがあります。

対応の基本方針は、事実関係の修正やニュアンスの調整には応じつつ、記事の骨格を崩すような大幅な書き換えには応じないというラインを持っておくことです。

事前に「公開前に原稿をお見せしますが、事実確認の範囲での修正とさせてください」と合意しておけば、このプロセスはスムーズに進みます。合意なく取材先に原稿を渡してしまうと、記事の大幅な書き換えを求められるリスクが高まるので注意が必要です。

取材記事をSEOにも活かすひと工夫

せっかく手間をかけて作った取材記事は、検索からも見つけてもらえるようにしておきたいものです。

取材記事には構造化データ(Article)をマークアップすることで、Google検索でリッチな表示が得られる可能性があります。authorやdatePublishedを適切に設定しておくと、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)の観点からも評価されやすくなります。

取材記事を単体で終わらせるのではなく、関連するテーマの記事群とリンクさせることで検索流入を増やすこともできます。コンテンツハブ戦略で検索順位を底上げする手法の考え方は、取材記事の活用にもそのまま応用できます。

さらに、取材内容を記事だけでなく電子書籍にまとめるという活用法もあります。一度の取材から複数の形式でコンテンツを展開する方法に興味がある方は、インタビューからKindle書籍を制作するガイドもぜひ参考にしてみてください。

まとめ

取材記事は、事前準備の深さが記事の質の8割を決めます。ポイントは3つに集約されます。

  • 「読者が知りたいこと」から逆算して質問を設計する
  • 当日のインタビューでは「なぜ」を3回深掘りして本音を引き出す
  • 原稿は時系列ではなく、読者の関心順で構成する

まずは来週、次の取材案件で「質問リストを作る前に、記事のゴールを1文で定義する」ことから始めてみてください。この一手間を加えるだけで、取材当日の質問の切れ味が明らかに変わるはずです。